2026-08-16|下手晴男(システム係)

フリーランスの未払い、契約書なしでどう回収するか

私はシステム係という個人事業で社内に IT 担当者がいない中小企業のシステムづくりと運用を引き受けています。名古屋を拠点に全国リモートでも対応しています。開発から運用・保守まで一人でやっているので請求も回収も自分の仕事です。

支払いが止まったときの話を書きます。公開の場で見かける困りごとには納品したのに支払われない、支払いが遅れたまま連絡が途切れる、完成した制作物を渡したのに入金がない、いったん納品したあとで「一部返してほしい」と言われるといったものがあります。どれも揉めてから何とかしようとすると分が悪い種類の話です。

何が起きているのか

未払いには性質の違うものが混ざっています。区別しないまま同じ対応をすると空回りします。

フリーランスの未払いで契約書なしの状態がつらいのは、この区別をつける材料が自分の手元にないからです。何をいつまでに納めることになっていたのか、検収はどうやって成立するのか、支払期日はいつか。これらが文書になっていないと、相手の言い分と自分の言い分が対等に並んでしまいます。

もう一つ、担当者とのやりとりが口頭やチャットだけで進んでいる場合、社内で話がどこまで通っているのかが見えません。担当者は「進めてください」と言ったが社内の決裁は取れていなかった。この形の未払いは相手に悪意がなくても起きます。

契約書がなくても、契約はある

まず押さえておきたいのは契約書という紙がないことと契約がないことは別だという点です。仕事を依頼して、それを引き受けて、納品して受け取られている。この事実の連なりがあれば、そこには合意があります。問題は紙の有無ではなく、その合意を後から示せるかどうかです。

示せる材料は、たいてい散らばった形で残っています。

フリーランスの未払金を回収する場面では、この材料をどれだけ揃えられるかが、そのまま話の強さになります。だから支払いが止まったと気づいた時点で、まずやることは催促ではなく保全です。チャットツールは無料プランだと過去ログが消えたり見られなくなったりします。相手のアカウントが消えることもあります。スクリーンショットではなく、可能ならエクスポート機能で全文を書き出し、日付が残る形で自分の手元に保存してください。

「支払いはいつになりますか」と聞くときも電話ではなくメールで聞きます。電話で聞いてしまったなら、そのあと「先ほどお電話でうかがった件、◯月◯日までにお支払いいただけるとのことでしたので念のため記録として残します」とメールを送る。これで口頭の約束が文字になります。

催促から内容証明までの順番

いきなり強い手を打つ必要はありません。段階を上げていくと、それ自体が記録になります。

  1. 事務的な確認 — 請求書の到着確認と支払予定日の確認。相手が単なる遅延なら、ここで解決します。責める文面にしないことが大事です
  2. 期限を切った催促 — 支払期日を過ぎていることを事実として書き、いつまでに支払ってほしいかを明記する。ここから宛先に担当者だけでなく、その上長や経理も入れます
  3. 書面での請求 — メールの返事が止まったら、書面に切り替えます。ここで内容証明郵便を使います

フリーランスの未払いで内容証明を出す意味は相手を怖がらせることではなく、「いつ、誰が、どんな内容の文書を送ったか」を郵便局が証明してくれる点にあります。あとで話が法的な場に移ったとき、催促した事実を自分で立証しなくて済みます。書く内容は契約の経緯、納品した事実、請求額、支払期日、いつまでに支払ってほしいか、応じない場合にどうするか。感情を書く場所ではありません。日本郵便の内容証明のページに書式や差し出し方が載っています。

フリーランスの未払いに遅延損害金を付けられるかという点ですが支払期日を過ぎた分については契約で利率を決めていなければ法定利率で計算した遅延損害金を請求できます。金額としては大きくならないことも多いですが請求書に載せることで「期日を過ぎている」という事実をはっきりさせる効果があります。

「一部返してほしい」と言われた場合も対応は同じです。どの成果物をいつ納品し、相手がそれをどう受け入れたか。修正依頼のやりとりが残っていれば、それは相手が成果物を検収に近い形で扱った記録です。返金に応じるかどうかを感情で決めず、記録を並べてから判断してください。

相談先を知っておく

自力で動く前にフリーランスの未払いを相談できる窓口があることを知っておくと判断が楽になります。

フリーランスの未払いで弁護士に依頼するかどうかは請求額と手間の釣り合いで決まります。少額なら、簡易裁判所の支払督促や少額訴訟という手段もあります。いずれにしても相談する側に記録が揃っているほど話は早く進みます。ここでも結局、保全した記録が効いてきます。

まず何から手をつけるか

未払いが起きてからの対応より次の仕事から仕組みを変えるほうが確実です。私が自分の仕事でやっていることを書きます。

  1. 今止まっている案件の記録を今日エクスポートする — チャットログ、メール、納品連絡、請求書。フォルダを一つ作って、案件ごとに入れておきます
  2. 発注をメール1通に固定する — 契約書を交わせない相手でも「今回のお仕事、下記の内容で承ります。ご確認ください」というメールを1通送り、「はい」の返信をもらう。書くのは作業範囲、納品物、納品予定日、金額、支払期日、修正回数の上限。これだけで後から争点になる部分のほとんどが文字になります
  3. 請求書の番号と支払期日を一覧で管理する — 表計算ソフト1枚で足ります。請求日、支払期日、入金日、未入金なら経過日数。経過日数が自動で出るようにしておくと催促のタイミングを忘れません
  4. 催促の文面をテンプレートにしておく — 1通目(事務的な確認)、2通目(期限を切った催促)、3通目(書面に切り替える予告)。毎回文面を考えるのは負担が大きく、それが催促を先延ばしにする理由になります
  5. 着手金や分割の条件を最初のメールに入れる — 金額や割合をどうするかは相手との関係で決めることですが「全額を納品後に受け取る」以外の形を最初に提示できるようにしておきます

3 のような一覧は案件が増えると表計算では追いきれなくなります。そのときは請求書の発行と入金消込を同じ場所で扱える仕組みに移す。会計ソフトの請求機能で足りることも多いので、まずは今使っているものに何ができるかを確かめるところからで十分です。

回収の場面で効くのはうまい交渉ではなく案件が始まった時点で残しておいた1通のメールです。今動いている案件で、それがまだ無い相手がいたら今日のうちに送っておいてください。

この記事のもとにした声

公開されている場で実際に語られていた困りごとを出発点にしています。