ひとり情シスの現実的な対策5つ——Amazonの現場でITを支えてきたエンジニアの視点
「パソコンが起動しない」「プリンタが繋がらない」「あのシステムのパスワードって誰が知ってるの?」——会社のITに関する質問が、ぜんぶ自分のところに来る。開発も、サーバも、セキュリティも、ベンダーとのやり取りも。それが「ひとり情シス」の日常だと思います。
私はアマゾンジャパンに通算11年在籍し、最初のキャリアはITサポートエンジニアでした。物流拠点の立ち上げでネットワークとIT機器を整備し、現場から上がってくる無数の「動かない」に対応し、その後はBIエンジニア・データエンジニアとして業務改善の仕組みづくりをしてきました。巨大企業ですら、現場のITは実質ごく少人数で回っています。まして中小企業で、たった一人でこの全部を背負っている方の大変さは、想像ではなく実感として分かります。
この記事では、精神論ではなく、現場で機能した経験に基づく「現実的な対策」を5つに絞って書きます。
ひとり情シスが崩壊する仕組み
対策の前に、なぜ回らなくなるのかを構造で捉えておくと、打ち手がぶれません。
- 割り込み駆動になる——「ちょっといい?」の積み重ねで、計画した仕事が進まない。ITサポートの現場はまさにこれで、対応を仕組み化しない限り、優秀な人ほど割り込みで消耗します。
- 属人化が加速する——忙しいから記録を残せない。記録がないから自分しか対応できない。自分しか対応できないから、もっと忙しくなる。休めない・辞められない状態は、この循環の結果です。
- 成果が見えない——ITは「何も起きていない」ことが成果ですが、何も起きていないと仕事をしていないように見える。評価もされにくく、投資も通りにくい。
割り込みが来るたびに、進めていた仕事は止まり、少し巻き戻ります(作業の再開には思い出す時間が要るからです)。途中で「受付を仕組み化する」——つまり対策1の「やらないことリスト」と受付ルールを入れると、同じ割り込みがメモに積まれるだけになり、計画の仕事が前に進み始めます。
一般社団法人ひとり情シス協会の調査では、「特に相談者はいない」と回答した担当者が28%にのぼります。技術的に孤立し、構造的に消耗する——これがひとり情シス問題の正体です。
対策1: 「やらないことリスト」を経営と合意する
一番効くのに一番やられていない対策です。ひとり情シスが崩壊する起点は「全部やろうとする」ことなので、最初にやるべきはやることを増やすことではなく、やらないことを決めて、上司や経営者と合意することです。
例えば「個人スマホの設定相談は受けない」「業務システム以外のソフトの使い方は各自でヘルプを参照」「新規ツールの導入判断は四半期に一度まとめて」。ポイントは自分で勝手に決めるのではなく、経営側の承認を取って明文化すること。これで「断る」が個人の判断から会社のルールに変わります。
対策2: ドキュメントは「完璧なマニュアル」を捨てて30分メモ
属人化対策で挫折する典型は、完璧なマニュアルを作ろうとして時間が取れず、結局ゼロのままになるパターンです。
私が現場で有効だと感じてきたのは「次の人が読んで30分で概要がつかめるメモ」を1システム1枚だけ作ることです。書くのは4つだけ——①何のためのシステムか ②ログイン情報のありか(書くのは場所であって中身ではない)③困ったときの連絡先(ベンダー名・契約番号・電話)④直近やった変更。体裁は不要、箇条書きで十分です。完璧な手順書より「地図」のほうが、緊急時にも引き継ぎにも効きます。
赤い点は「休めない状態」。4つの箱を回り続けます。ボタンを押すと、メモ1枚がループのどこを切るかが見えます。
対策3: 定型作業は「小さく」自動化する
自動化というと大きなプロジェクトを想像しがちですが、効くのは小さい自動化の積み重ねです。毎週やっているExcelの集計、毎月のアカウント棚卸し、CSVの整形——1回15分の作業でも、週次なら年13時間です。
前職で関わったトヨタ系企業の現場では、1日2時間の定型処理をバーコードとスクリプトの仕組みに変えて1分にしました。年間に直すと約500時間——この計算機のスライダーを右端に振り切った規模の話が、現場には実際に転がっています。
魔法のツールを入れるのではなく、人がやらなくていい部分を特定して、そこだけ機械に渡すのがコツです。ExcelのPower QueryやVBA、Pythonの短いスクリプトで十分始められます。前述のトヨタ系企業の現場では、この考え方で1日の対応可能台数が8台から24台に増えました。
対策4: ベンダー情報を1枚に集約する
複合機、会計ソフト、回線、レンタルサーバ、業務システム——中小企業でも契約ベンダーは意外と多く、その連絡先と契約内容が担当者の頭の中とメールボックスにしかない、というケースがよくあります。
ベンダー名・問い合わせ窓口・契約更新月・年額・解約条件を1枚の表にするだけで、引き継ぎ可能性が生まれ、更新時の交渉材料になり、「使っていないのに払い続けているもの」も見つかります。1時間でできて、経営者に最も感謝されやすい仕事のひとつです。
対策5: 「外部の相談相手」を1つ持つ
冒頭の調査のとおり、ひとり情シスの3割弱には相談相手がいません。技術判断を一人で抱えるのは、業務量以上に精神的な負荷になります。
外部リソースには大きく3つの選択肢があります。
| 選択肢 | 向いているケース | 留意点 |
|---|---|---|
| 情シス代行サービス | ヘルプデスク的な問い合わせが多い | 窓口は共有担当が多く、技術的に深い相談は別料金のことも |
| 派遣・常駐 | 業務量が多く、常時人が要る | コストが高く、採用難も同じ構造 |
| フリーランスと直接契約 | 技術判断の相談相手と実装まで欲しい | 個人の力量に依存。見極めが必要 |
どれが正解かは状況次第ですが、判断基準はひとつ——「相談した相手が、そのまま手を動かしてくれるか」。相談窓口と実装者が分かれていると、伝言ゲームのコストが結局あなたに戻ってきます。
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私自身は現在、個人事業主「システム係」として、社内にIT専任者がいない会社の「外部のIT責任者」を月額で引き受けています(月3万円から・1ヶ月単位・チャット窓口つき)。相談を受けるのも、実装するのも、いつも私本人です。ちなみにこの記事のさわれる図解も、普段の仕事と同じ手作りです。
この記事の対策1〜4を、あなたの会社の状況に合わせて一緒に整えるところからでも構いません。30分の無料相談をやっていますので、「何から相談していいか分からない」状態のままで大丈夫です。
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